ご案内
死を見つめることをさけずに病人と心をあわせていこうとする姿勢をもつことは、病人が「1日1日の生活を精一杯生きる」ことの大きな支えにつながると思います。
てくると、さけてばかりはいられなくなってきます。
死というものを見つめ、限られた生をいかに生きるかという課題に、家族自身が向き合わなければならなくなってくるのです。
そのような事態にありながら、それでもなお家族が死について考えるのをさけようとしたら、どうなるでしょうか。
死を認めたくないあまり、目の前の病人の死をも否定するでしょう。
そして治療の必要性だけに執着して、病人の気持ちから心をそらすようになるでしょう。
その結果、ますます病人と家族の心がへだたってしまうかもしれません。
Yさんは手術から1年半後に再発し、入退院をくり返しながら発病後2年2か月目に亡くなりましたが、ご主人はYさんの最後の状況をこんなふうに語っています。
「私たちは、最後の最後まで、心を通じあわせることができました。
苦痛な症状が現れるようになると、病人と思うようにコミュニケーションがとれなくなることがあります。
そんなとき、病状ばかりが気にかかり、病気そのものが病人の印象のすべてになってしまうかもしれません。
しかし、このような状態になっても、病人の人格を尊重すること、また家族の一員として一緒に生きているという事実を、忘れないようにしましょう。
病人は最後まで自分の意思や感情をしっかり持って生きているのですから。
死の瞬間まで家族との関わりの中で生きている。
死の瞬間まで意思を持って生きている。
しかし、重症になり、苦痛な症状が現れ、思うように心が通じあえなくなると、家族として一緒に生きているという実感が持てなくなりがちです。
もし意識がなくなり昏睡状態になれば、残念ながら心の交流も一方的になってしまいます。
しかしたとえ人工呼吸器によって生かされていても、意識があり意思の疎通ができる状態であれば、病人は死の瞬間まで、自分の意思をしっかり持って生きているのです。
その意思や気持ちに家族は耳を傾け、最後までしっかり受け止めることが大切です。
どんな状態においても、病人の意思を受け止め、心の交流が行われることは、単に病人の生を意味づけるだけでなく、家族や病人に関わる人すべてにとっても、人生の大切な思い出となります。
しかし耳元に口を近づけて話しかけ、妻の手を私の手に重ねて持っていると、かすかな反応があり、妻の気持ちがわかりました」。
Yさんが、生きていた最後の瞬間まで、家族と心を通わせ、家族との関わりの中で生きていたことがよくわかります。
このようにガン患者の場合、最後まで意識があり、家族との交流をつづけることができる場合が少なくないのです。
残された生命に限りがある病人の看病をしながら、家族の気持ちはさまざまに揺れ動き、ときに複雑な心境になることもあります。
その気持ちも病人との関係(配偶者の場合、親子の場合など)や、病人の年齢などによって微妙に違ってくるでしょう。
特に病人が若い人である場合、家族の受けるショックや動揺には計り知れないものがあります。
小児ガンやごく若い人の場合、あるいは働き盛りの人の場合、生を確かめようとして精一杯前向きに生きようとする病人を前に、家族の方が気持ちの処理ができず、精神的ショックからなかなか立ち直れないということも往々にしてあります。
諦めきれない思い、苦しみや悲しみをかかえながら、うろたえがちになるとき、この項が参考になればいいと思います。
日本人の平均寿命が世界一長くなり、特に女性は80歳以上まで生きられるのが、当たり前になりました。
38歳で死を迎えたある女性が、「私は38歳。
まだ若い!」と書き残して亡くなられたのですが、それは当然の気持ちだったでしょう。
52歳で亡くなった前述のYさんも、「私はまだ50歳だから、平均寿命よりは、ずいぶん若い」といってから、「でも昔は『人生50年』て言っていたから、これでも文句はいえないわね」と話していました。
こんなエピソードもあります。
まだ35歳の白血病の男性が、吐血をくり返し、あと1週間くらいしか生きられないと思われる状態だったある日、ベッドからずり落ちているのを看護婦が発見しました。
「どうなさったのですか」とあわててそばにかけよった看護婦に、この男性は「このまま寝てばかりいたら、歩けなくなってしまうから、今、自分でリハビリ訓練をしていたところです」と答えたそうです。
このように、死が訪れることはわかっていても、まだその年齢にはほど遠いとき、どんなに重症の状態になっていても、死はまだ起こりえないことと考えられている場合が少なくありません。
あるいは、わかっていてもそれを信じたくないために、死が近いことを必死になって否定しようとしているのかもしれません。
もちろん誰もがそうだというわけでなく、幼い子どもでも、死が近いのを感じている場合があります。
したがって、画一的な考え方を持つのはよくないのですが、一般に病人がまだ若いとき、死が近いことを認識しにくい場合が多いように感じます。
若い病人は、死を意識することをさけるかわりに、生を確かめようとして、精一杯前向きに、毎日を大切に生きようとします。
死を受け入れられず、生を確かめようとして、こうしたい、ああしたいと自分の要望を持つのは、若い病人にとっては当然のことです。
その気持ちを、家族はまず理解してあげましょう。
次に大切なのは、精一杯前向きに生きようとする病人に、家族も精一杯協力しようという姿勢を示すことです。
病人が望んでいることを、それがたとえ現実的には難しいことであっても、可能な範囲でできるだけかなえてあげてほしいのです。
たとえば、医師から絶対安静を告げられている状態のときに、「外を散歩したい」と病人が望んだら、どうしたらよいでしょうか。
外出は無理でも、移動が可能な状態であれば、車椅子で窓のそばまで連れていくことはできるかもしれません。
もちろん、どんな場合にでも当てはめられるわけではありません。
病人の状態を冷静に判断した上で、多少無理があっても対応をするということがを生きようとするでしょう。
家族の方がその気迫に圧倒され、うろたえてしまうかもしれません。
しかし、家族がいつまでも感情の処理がつかないままの状態でいることは、病人にとって大きなマイナスになってしまいます。
病状が悪化し、意思に反して体力が衰えていくばかりの病人に対して、周囲の者は何もしてあげ病人が望んでいることを可能な限りかなえて構えです。
病状が悪化し、病人が「〜したい」と望んでいることを満たしてあげられない場合でも、「〜するよりは療養に専念しましょうね」という返答はしないようにします。
だからといって、「いつか〜できるようになるといいね」と期待だけで引きずっていっても、当人の気持ちから離れてしまうでしょう。
痛みも強く、病人自身が「〜できそうもない」と知りながら、その気持ちの裏返しとして「〜したい」といっていることもあるからです。
られないというのが実状です。
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